日本和紙写真協会のビジョン 執筆 会長田中伸明

第1章 和紙写真にこだわる理由

1.プリントして初めて写真は完成する

撮影データのままでは未完成。紙にプリントして初めて、写真としてその存在が完結できるのです。

紙本来の風合いに、画像データが結像したことで誕生する質感が、その写真の魅力です。

インターネット上に溢れている写真画像は、画像を記録したデータでしかないのです。

​​写真家の荒木経惟氏は、「プリントしない写真は成仏できていない」というニュアンスで、写真プリントの重要性を解説しています。
 

2.未完成のまま終焉してしまった、カラーフィルムによるプリントシステム
モノクロームの銀塩印画紙写真は、様々な手法で​100年単位で保存できる美術品になることができましたが、カラーの銀塩印画紙プリントは、数年間で変色や退色する問題を未解決のまま、フィルム写真の時代は実質的に終焉し、デジタルプリントの時代に突入してしまったのです。

高価な一部の特殊写真プリントを除くと、一般的なインクジェットプリントは、数年で退色してしまう写真プリントです。

保存性を高めるために金やセレン金属などの、調色加工されたモノクローム銀塩印画紙写真を保存するミュージアムは世界中に数多く存在しますが、カラー写真を美術品や歴史的な所蔵物として取り扱うミュージアムは、​一般的には存在しないのが現状です。

3.海外では写真は美術品として売買される

私は個人の写真家として、1994年にフランス・パリ、ルーブル美術館の入っている施設の地下にある、大規模展覧会場で開催された国際写真展である「fotofever」にて、三菱印画紙とゼロックスによって開発された、パール素材を盛り込んだデジタルプリントした全裸作品を発表しました。

 

 

 

 

 

 

 

「fotofever」は、世界各国の写真家が作品を自由に売価をつけて展示する巨大写真展です。

この時のヨーロッパには、写真を美術品として高額でコレクションしている一般人の存在に気がつきました。

​ロシアのオレンブルク美術館でJapan WashiPhoto Exhibitionを開催したことで、現地のアート会社とWashigraphPhoto (和紙写真)の売買に関する契約を結びました。

4.アートしての写真プリントを追求した結果、和紙写真にたどり着いた

徳島県の吉野川市にあるアワガミファクトリーのプリンティングディレクター・郷司史郎さんが手がける手漉き和紙は、10色の顔料を使用した高密度のプリントです。

油性インクを使用していないことと、手漉き和紙の表面に日本伝統のオーガニックな塗料を塗っていることで、数百年単位の保存性を誇る写真プリントです。

微細な部分まで豊かな階調を再現できるモノクローム写真、鮮明な色彩を奥深くまで再現できるカラー写真は、絵画の複製画に使用されるジークレープリントよりも豊かな再現性を持ち合わせた写真プリントです。

ロシア州立オレンブルク美術館に展示された和紙写真は、ロシアのメディアから「光の版画」と賞賛されました。

写真データを美術品として価値を高める上で、和紙写真(WashigraphPhoto)は最適な写真プリントだと言えるでしょう。

5.和紙写真を表装した作品が海外では大人気

日本和紙写真協会で、「和紙写真と表装文化研究会」を発足させました。

会の座長はWashigraphPhoto掛け軸や屏風などに表装した表具作品を積極的に発表しているシアン・ニクレルさん。

iPhone写真のWashigraphPhotoを表装で連結し、10メートルの絵巻にした砂田節子さん。

花鳥画のオマージュともいえる、雀のいる枯野の写真を屏風に仕上げた瀧脇雅之さんの作品も、ロシアのオレンブルク美術館での展覧会では、日本画のワークショップの教材にされるまで人気が集まりました。

​6.世界を魅了する日本の表具文化の一環としてWashigraphPhotoを位置づけたい

紙としてのしなやかさな丈夫さ、自然な風合いのきめ細やかさ、圧倒的な保存性の高さを理由として、手漉き和紙は100年以上も前から版画の世界では人気があり、特に日本製はその品質の高さで画家の間では珍重されてきた歴史があります。

ただし、本物の日本製の手漉き和紙は西洋では非常に高価で、有名版画作家でも摺り数の一部にしか使用されず、別エディションとして、コレクターの間では一般紙の何倍もの価値があるそうです。

掛け軸、屏風などは、和紙に描かれた画作品を、補強する和紙と何種類かの布で張り合わせ、木材や金属をつかってデザインしたアート作品です。その他にも、襖絵や絵巻き、扇子、灯籠なども同じように和紙を表装した伝統工芸品で、一般的には表具と呼びます。和紙写真を表装することで、日本で独自に進化した表具文化との融合が実現しています。

日本の表装文化は千年以上の歴史を誇りますが、接着や加工材料に天然素材を使用しているため、長期間保管しても変色がほとんどありません。また、補修や保管の技術の習得を求めて、世界中の美術館や博物館から修復師の育成を図っています。

茶道や華道や舞踊などの世界とも精通しており、最近の全世界的な日本ブームもあって、和紙写真による表具作品はアートとして人気が高いです。

日本和紙写真協会は、こうした人気の架け橋になりたいと思っています。

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​第2章 写真を美術品にするために

​1.美術館展示にこだわる理由

日本和紙写真協会が美術館や博物館などのミュージアムでの展示にこだわる最大の理由は、和紙写真をきちんと美術品として社会的に認知してもらうことができるからです。

その他には、以下のような理由が挙げられます。

◯入場料の発生する施設には、作品を管理・監視するスタッフが存在している。

◯作家(写真家)の存在を明確に訴求できる。

◯展覧会ごとにテーマ性を明確にできる。

◯国際博物館会議ICOMのメンバーとして海外で活動できる。

◯カメラマニアや嗜好的写真マニアを排除し、固定観念のない一般人に見てもらえる。

◯オープニング式典などを通じて、人的なネットワークを拡大できる

◯図録やポスターを制作できる。

◯宣伝や取材対応をきちんとできる。

◯施設に作品を所蔵してもらえるチャンスがある。

◯施設同士のネットワーク内での巡回展示の可能性。

2.昭和の写真シーンは終焉を迎えようとしている

昭和の時代から日本の写真シーンの権威であり、その中心的に役割を果たしてきたアサヒカメラと日本カメラが消滅しました。

読者層の高齢化による発売部数の減少と、カメラメーカーの業績不振による広告出稿の激減が閉刊に追い込まれた理由でしょう。

女性向けのカメラ雑誌、カメラコンテスト雑誌も、ほとんど店頭から消えました。

コンパクトカメラの市場はほぼ絶滅状態で、大手カメラメーカーの多くは経営難に喘いでいます。

また、アサヒカメラの連結団体である全日本写真連盟のような全国的な写真倶楽部も高齢化が顕著です。

こうした状況を招いた最大の要因は、スマホカメラの進化とその普及で、現在、世界最大のカメラメーカーは、iPhoneなどのスマートフォンを発売しているメーカーです。

商品や洋服のカタログ撮影は劇的な進化の真っ最中で、流通システムに組み込まれたロボットカメラは、プロカメラマンの仕事を奪いました。

インターネットや書籍の編集者、取材の現場は、スマホカメラやタブレットカメラの使用がごく当たり前になっています。

若い世代が、複雑な操作知識を必要とする一眼レフやミラーレスカメラを購入する可能性はごくわずかで、カメラメーカーは一部の高級機市場のみを残して、この数年で崩壊するのは確実でしょう。

カメラメーカーが主導する形でメディアや団体を牽引する時代は、もうすでに消滅したと言っても過言ではないでしょう。
 

3.日本人は写真を習い事だと思い込んでいる

昭和から、Instagramが誕生する平成の中期まで、日本の写真シーンを牛耳っていた権威は、カメラ雑誌投稿と写真コンテスト応募における審査員でしょう。この審査員たちと彼らのスポンサーであるカメラメーカーが、いわゆる「いい写真」と「上手な写真」の固定イメージを作ったことは確かです。

日本人の権威に忖度する性質もあり、「写真は先生に褒められるもの」「コンテストで入賞しなければならないもの」という脅迫観念が、日本の写真シーンを、自由な美意識やきちんとした歴史感に基づいたアート観とはほど遠い、世界でも稀ないびつな世界にしてしまったのです。

アサヒカメラや日本カメラのような雑誌が日本にしか存在しないことが、そのことを明確に物語っています。

4.「写真を見せる行為」をおざなりにしてきたツケ

昭和後期から平成の時代に、写真週刊誌やアイドル写真誌、ポルノ雑誌などが氾濫したことで、写真はすぐに捨てられるものになってしまいました。

パソコンやスマホで写真をやり取りするようになってから、以前にまして写真は個人的な、とてもこじんまりとした存在になったことは確実です。写真をプリントして展示するノウハウや美意識が消失しようとしている状態に危機感をもっている写真家は多いと思います。

無断で街頭の人物を隠し撮りするストリート写真や、マナー違反のやり玉にあげられる鉄道や有名撮影地でのトラブルの根底には、「自分さえ満足すればいい」孤独感に苛まれた嗜好としての写真感が存在しています。

私は全裸撮影をモチーフにした作品づくりをライフワークにしていますが、モデルの女性たちに気に入られよういう撮影はしていません。撮影時に私とモデルの女性は、その女性が個人的に見せたい相手に「すばらしい美しさ」とつぶやかれるような様子を想像しています。私と彼女が出来上がった写真を見ていただきたい相手というのは、個人的な関係の、ごくわずかな親しい人と、美術館や博物館を訪れる鑑賞者なのです。

5.日本和紙写真協会と国際博物館会議ICOMとの関係

ICOM国際博物館会議は、美術館や博物館などのmuseumとcurator(学芸員)の国連傘下の地球規模ネットワーク組織で、museumとその活動を支える専門家による活動を支援する国際非政府機構です。

1947年に設立され、事務局がパリの国連ビルにあります。ユネスコと協力関係を保ち、国連では経済社会理事会の諮問資格を有しています。

ICOMによる「Museum」の定義は、1946年に制定されたICOM憲章で初めてなされ、当初、その第2条においては以下のように定義されていました。 「ここにいう博物館とは、公開することを目的とする芸術、科学、技術、歴史および考古学資料のすべての蒐集品と、動物園、植物園を含むものとする。ただ し、常時の展観室を備えていない図書館を除く」。

現在、ICOMは137の国と地域から、3.5万人に及ぶ博物館の専門家が活動に参加しています。執行委員会と諮問委員会のほか、世界を八つの地域に分けた地域団体と114の国内委員会、専門分野に分けられた31の国際委員会によって組織されています。

世界の自然や文化遺 産の保全・維持活動を支援し、文化財の密売への対処などの専門的な問題に取り組むことを、主な目的としています。また、専門家間の国際的な協力や交流を 促進し、専門知識や倫理面の水準向上を目ざした人材教育を支援しています。日本では1951年(昭和26)にICOM日本委員会が設立され、ICOM本部と の情報交換や事業参画を図っています。事務局は東京都台東区にある公益財団法人日本博物館協会に置かれています。

2019年に開催された京都大会では、「文化をつなぐミュージアムー伝統を未来へー」をテーマに掲げ、115の国と地域から4145名の会員が参加。この数字は大会史上最多であり、日本人参加者も1681名と過去最多を記録しました。

ICOMでは大会毎に決議文(拘束力はなし)が採決されることになっており、今大会では最終的に6本の決議案が提出。そのうち2本はICOM日本が提出 したもので、「The Integration of Asia into the ICOM Community(アジア地域のICOMコミュニティへの融合」と「Commitment to the Concept of ‘Museum as Cultural Hubs’(「Museum as Cultural Hubs」の理念の徹底)」となっています。

この京都大会のゲストパビリオンに、写真家として唯一参加した田中伸明が参加。等身大の全裸の写真を、四国の阿波紙による手漉き和紙に印刷し、京都に工房を持つ国際的な活動を続ける修復師の手によって表装した、巨大屏風作品を展示しました。これを見たロシアのオレンブルグ州立美術館館長から招聘をいただき、契約書作成をきっかけとして、日本和紙写真協会は設立されることになりました。

また、この展覧会の開催実績を評価されて、日本和紙写真協会の中枢メンバーがICOMの会員に承認されました。

ちなみに、ロシアは世界最大のICOM会員数を誇るアート大国。2021年7月からスタートしたオレンブルク美術館でのJapan Washigraph Exhibitionの開催実績が、ロシアICOMのネットワークによって、ロシア全土の博物館にも伝播したことでJapan Washigraph Exhibitionのロシアの全土の開催拡大に繋がっています。

6.WashigraphPhoto作品を世界中で売買できるシステムの確立

ロシアの美術館や博物館での展覧会は、引き続き各都市の施設からオファーを頂戴していますが、ありがたいことに作品を御覧になった来場者から「作品を販売してほしい」というをご要望が相次いでいます。

そこで、美術館の仲介により、テストケースとして販売を開始しました。美術館側は作品の販売に直接関わることができない規則なので、新たに日本和紙写真協会と販売契約をかわす会社ZOLOTOY KVADART社と契約しました。

この会社は、オレンブルク市のアートショップを展開する会社です。この会社はオレンブルク美術館から、展覧会用のフレーム(額装)を制作する際にご紹介いただきましたが、フレーム工房だけでなく、絵画をはじめとしたアート作品を販売するギャラリーも二部屋所有している会社です。このZOLOTOY KVADART社のオーナーのAlevtina Afmpayaさんは日本和紙写真協会のよき理解者である女性で、ロシアの写真家を募集する当協会のロシア支部も担当していただいています。

同時に、作品の販売を目的にしたオンラインショップARTROOM(http://www.artroom.tokyo/)を用意。このオンラインショップのQRコードを掲載したショップカードを、展覧会の会場で配布し、ネットで申し込み、作品の手渡しや集金作業はZOLOTOY KVADART社にお願いするというシステム構築を準備しています。

自社決済が可能な日本国内はもちろん、世界各国で、同じような方式で作品の販売を積極的に展開することは、現実的な作家支援活動に繋がると期待しています。

3章 目指している構想  準備中

  1. ​​​海外のミュージアムがターゲット

  2. ​日本の伝統美術や工芸文化との親和性

  3. 会員の作家としての意識改革を進行中

  4. 日本和紙写真協会は素人の才能を開花させるガーデニングを目指す

  5. 海外の作家はもうすぐ参加する

  6. 和紙原料植物の栽培を産業化計画を支援する

  7. 京都で和紙をコンセプトにした国際写真イベントを継続開催するプロジェクトを作る

4章 変化に備える  準備中

  1. ​普通の人はカメラを買わない時代がもうすぐやってくる

  2. 世界で一番売れているカメラはスマホカメラ

  3. ​写真データの最適化が進化の肝